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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)5385号 判決

判   決

第一、当事者

一、原告 杉並区堀ノ内一丁目三番地

佐藤奨

訴訟代理人弁護士

金田哲之

二、被告 千代田区神田旭町一六番地

旭洋物産株式会社

代表者代表取締役

水沢武夫

訴訟代理人弁護士

米田為次

野村孝之

第二、主   文

一、原告の請求を棄却する。

二、原告は訴訟費用を支払え。

第三、事   実

一、請求の趣旨

被告は、原告に対し次の株券を発行せよ。

(1)  昭和三二年三月五日発行の株式中原告名義の二〇〇株の株券

(2)  同年七月九日発行の株式中原告名義の三〇〇株の株券

二、請求の趣旨に対する答弁

請求棄却

三、請求の原因

1  被告は、昭和二七年五月二六日に設立された株式会社であるが、次の通り、新株を発行した。

払 込 期 日  発行新株式数

A昭和三二年三月五日  四、〇〇〇株

B同   年七月九日 一〇、〇〇〇株

2  原告は、Aの新株中二〇〇株、Bの新株中三〇〇株の株主である。

理由事実、原告は、Aの新株発行に際して二〇〇株、Bの新株発行に際して三〇〇株の引受をなし、且つ、その払込はいづれも払込期日までになされた。

四、請求の原因に対する認否

1  第1項を認める。

2  第2項を否認する。但し、理由事実中原告名義で各新株の引受がなされ、且つ払込がなされていることは認める。即ち、原告と訴外岡里宏は、合意の上、実質的には岡里が、名義的には原告が、本件各株式の引受及び払込をなすこととした。そして、原告は、右の合意の趣旨に沿つて、単に名義のみを原告とする意思で、本件各株式の引受及び払込をし、且つ、払込の資金は岡里が出した。従つて、右のような場合は、商法第二〇一条第二項の場合に当るが、同条項の解釈として、それは単に他人名義の借用者(本件では岡里)に払込の義務を負わせただけではなく、その者を株主とし、名義貸与者(本件では原告)を株主としない趣旨と解すべきである。(原告は以上の被告主張の事実を否認し、且つ前記条項の解釈を争つた。)

五、抗弁(仮定的)

1  原告は、前項記載の岡里との合意に際し、同人に対して、被告から原告に発行されるべき本件各株式の株券を受領する代理権を与えた。

2  被告は、原告代理人としての岡里に対して、右株券を交付している。

六、抗弁に対する認否

1を否認し、2は不知。

第四、証拠≪省略≫

第五、理   由

一、請求原因第1項は当事者間に争いがない。

二、同第2項について。

当裁判所は、商法第二〇一条第二項の場合、即ち名義貸与者と名義借用者とが意思を通じて名義貸与者の名義で株式の引受がなされた場合は、両者間の実質関係の如何に拘らず、対会社関係においては、株式引受人従つて株主となるのは名義貸与者であつて名義借用者ではないものと考える。同条項は単に資本充実の立場から、名義借用者にも払込義務を負わせたものと解すべきである。その主な理由は組織法乃至団体法における所謂外観主義又は表示主義の原則である。即ち、会社殊に株式に関する法律関係は、集団的且つ大量的な処理を必要とするものであるから、原則として外部から容易に識別できる形式的且つ画一的な標準によつて権利の帰属を決すべきであるからである。

本件において、被告は、原告の株主資格を否認しているが、原告が名義貸与者であることは認めている。従つて、名義貸与者を株主とする考えをとるときは、原告が株主であることを認めることができる。

三、抗弁事実を認めることができる。

証人(証拠―省略)を綜合すると、次の各事実を認めることができる。

(1)  被告会社は岡里が中心となつて設立されたものであり、本件各増資当時同人はその社長であつた。

(2)  昭和三一年頃、被告会社の資本金は一〇〇万円であつたが、銀行及び得意先に対する対外的信用を得るために、増資をする必要があつた。

(3)  しかし、社外から増資に応じてくれる者もなかつたので、会社自身の資金を増資の払込金に充てることになつた。

(4)  その際、会社資金を会社役員や、従業員の一部に功労金という形で支払うか又用従業員全部にボーナスという形で支払いこれを払込金に充てること考慮され、検討の結果、税金対策上後者の方が有利であるということになつた。

(5)  その結果、原告を含む当時の従業員全部(各回一二名)の了解を得た上、これらの者に対し、会社資金より税金控除後の額が払込相当額(第一回二〇〇万円、第二回五〇〇万円)となるような額を特別ボーナスとして支給したこととし、現金を各人に手渡すことなく会社の手によつてこれをそれぞれ払込金に充てるという方法により本件各増資を実行した。

(6)  一方、昭和三二年度は、全従業員に対して右増資用ボーナス以外に通常のボーナスが支払われた。

(7)  増資当時の原告の給料は一カ月二七、五〇〇〇円、右通常ボーナスは合計五回八一、二〇〇円であるのに対して、増資用ボーナスは合計二回三二万円であつた。

(8)  原告の被告会社における勤務年限は約一年位であり、又役員ではなかつた。

(9)  増資用ボーナスは従業員の実質的収入になつていないという理由で、これにかかる税金については凡て会社が負担した。

(10)  被告会社は税引後約七〇〇万円にのぼる前記増資用ボーナスを従業員に支払う程の利益は当時あげていなかつた。

(11)  株券は、昭和三三、四年頃作成されたが、岡里が全株券の交付を受け会社に保管した。

(12)  岡里を含めて本件増資の際の名義上の株主であつた者は、退社の場合は、その株式を当時の社長に無償譲渡した。

以上の各事実を綜合すると、被告会社は原告に対して本件各増資に際して、株式払込金従つて新株を支給する理由はなく、原告は単に名義を貸与したに過ぎず、名義を借用した実質上の株主は被告会社と言うべきであり、(因みに、このような会社資金による払込に基づく新株発行は無効と解すべきであるが、本件の論点になつていないので詳論しない。)且つ、名義の貸借に際しては、原告のみならず、名義を貸与した全従業員と当時の被告会社の代表者である社長岡里との間には、名義貸与者は自己名義の株式について凡ての権利を岡里に対して与える旨の明示又は黙示の合意があつたものというべく、その中には、右株式について将来発行されるべき株券を受領する権限も含まれていたものと認められ、岡里は右権限に基づいて本件株券の交付を受けたものと認めることができる。

四、なお、訴訟費用の負担について民訴法第八九条適用。

昭和三八年一〇月三一日言渡

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 伊 東 秀 郎

裁判官 武 藤 春 光

裁判官 宍 戸 達 徳

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